●スギダラ紀行魚梁瀬杉編 高知県馬路村 | 文
長町美和子 |
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その1 I その2 I その3 I その4 | |
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■モックル処理って何? |
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ミロク製作所
ライフル製造ライン |
今回のツアーの目的は、日本三大美林の一つである魚梁瀬杉の林を肌で感じ、地元で杉がどのように活躍しているかを確認して、スギダラプロジェクトに生かせるアイデアはないか、探ることにあった。 参加者はスギダラ代表として「杉王」を自ら名乗るデザイナー南雲さん、商品化に向けてひた走る内田洋行のデザイナー若杉さん、その子分である中尾さん、スギダラプロジェクト記録係を仰せつかったワタクシ長町の4人。 南雲さんから事前に届いていたツアー日程は盛りだくさんだったが、雨と風が渦巻く高知龍馬空港に着いたのは2時すぎ。最初の日は市内のミロク製作所で、ライフル銃と車のハンドル生産の模様を見学するだけで精一杯だった。 スギダラで何故ライフル銃なのか? 誰もが不思議に思うところですね。でも、ライフル銃をよく見ると、鉄の銃身を支える銃床は無垢の木でできているのです。 伸び縮みのないスチールと、自然素材で動きのある木を一体にするにはかなりの技術が必要になってくる、ということ。それで、明治26年創業という日本一古い猟銃メーカーには、木材を狂いなく加工する技術、ノウハウが蓄積されてきた、というわけだ。 その研究の過程で生まれたのが、「モックル処理」という画期的な技術。ミロク独自の減・加圧処理装置によって特殊な薬液を木材内部に浸透させ、科学変化によって細胞に膜をつくることで、木材の割れや狂い、腐敗やシロアリの害を防ぐというもの。 使用されるモックル処理液には、殺菌や殺虫力のある有害物質は含まれておらず、環境や人の健康に害を与える心配がない上、木材自体が持つ呼吸性や断熱性、保温性、調湿性などが自然のまま生かされるのが最大の魅力である。(http://www1.biz.biglobe.ne.jp/ ̄mi-mocle/ を参照ください) 実は、スギダラ王の南雲さんは、このモックル処理を施した木材を屋外に設置する公共施設のデザインですでに使用している。それで、スギダラのプロダクト製品にもモックル処理が生かせないかと思案中なのである。個人的には、杉の角材にピシッとひび割れが入っていくのは「おぉ、君も生きているねぇ」って感じで好きなのだが、人によってはやっぱり家具は平らで美しくあって欲しい、と思う人もいるでしょうからね。 そうそう、書き忘れていたが、今回の魚梁瀬杉ツアーのガイド役を買って出てくれたのは、このモックル処理材を扱うミロモックル産業の関根さん。ツアーの最終目的地である馬路村にモックル処理工場があるのだ。 |
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■いざ馬路村へ |
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馬路ミロク 全景 |
ポリエチレングリコールだの、有機酸亜鉛だの、モックル処理液についての小難しい話を車の中で聞きつつ、一行は土砂降りの中を室戸岬を横に見ながら馬路村に向かう。徳島県との境に近い馬路村までは高知市内から車で約1時間半。丸い石がきれいに積まれた芸術的な田んぼの石垣やら、土佐漆喰の古い家に見入っていると、山道はだんだん細くなり、いよいよ馬路村に突入! 馬路村は周囲を標高1000m級の山々で囲まれていて、総面積165.52平方キロメートルの96%が山林、しかもそのうちの75%が国有林だというから、まさに見渡す限り杉だらけなのである。 村では、特産品である魚梁瀬杉とユズを源に地域活性化を図ろうと、もう20年以上前から独自のプロジェクトを繰り広げている。そのいちばんの稼ぎ頭が「ごっくん馬路村」。聞いたことがある人もいるだろうけど、このハチミツ入りのユズジュースは掛け値なしの絶品である。魚梁瀬杉についても、建材以外での活用促進を図って、間伐材をお皿やうちわ、バスケット、照明器具などに加工して販売する「エコアス馬路村」を設立するなど、まさに村民一丸となって村おこしに励んでいるのだ。 エライと思うのは、ただ単に収益を上げようと役人主体で企画を練っているわけじゃないところ。商品のパッケージデザインもキャッチコピーもイラストも洗練されていて、「手にとってみたい」「買いたい」と思わせる力がものすごく強い。 自分たちの地域が持つ魅力を誠心誠意アピールすれば、村の知名度は自然にアップし、特産品も自然に売れるようになる。村民が誇りを持てるようになれば、若い世代や子供たちも地域に愛着を持つだろう。そうすることで、結果的に土地に根ざす歴史や文化を後世に残していくことができる。地方の市町村合併があちこちで行われている今、馬路村は「単独自立の村」宣言をし、力を合わせてがんばっている元気な村なのだ。 素晴らしい! これこそスギダラの精神そのものじゃありませんか! まずは自分たちが今与えられている自然の恵みを愛することだ。自信を持って「いいものはいい」と言うべきだ。本当に良いものは長く使ってもらうことができるし、それに対しての評価がちゃんと商品価格に反映されるはず。産地とつくり手と消費者が力を合わせれば、いろんなことができるよね!……温泉ですっかりいい気分になって、そのうえ保養センターの食堂のお母さんたち特性の手作り山菜料理をたんまりいただいて、地酒と焼酎でヘロヘロになり、ミロク製作所の二神さんから箸ケンも教わって、スギダラクラブ一行のデザイン談義は夜更けまで尽きることがなかったのでした。 |
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その3
■杉を見るぞ! ■ダムの底に沈んだ杉の町へ |
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